皆さま こんにちは。女性活躍推進をライフワークにしているwiwiw(ウィウィ)の山極です。
昨今、女性の活躍、とくに管理職育成について、多くの企業様からご相談をいただいています。
「当社は法律を超える両立支援制度を整備しているのに女性社員が活躍できていない。なぜ活躍できないのか?」
「女性を対象に女性活躍研修を重ねているが、管理職登用も進まない。どうしたらよいか?」
といった内容です。
そこで改めて、女性活躍推進の現状、社会の動き、また、これまで多くのコンサルティングや研究を行ってきた中でまとめた8つの課題についてご紹介します。
まず、図1をみていただきましょう。女性の就業者の割合ではどの国も大差がないのですが、日本の管理職に占める女性の比率が14.9%と低いことは一目瞭然です。
フィリピンの女性管理職比率が高いことはよく知られており、世界のトップクラスで51.5%、欧米先進国では30~40%を占めています。
なお、2005年時点では、日本の管理職に占める女性の割合10.1%に対し、フランスは7.2%にすぎませんでした(内閣府『平成19年版 男女共同参画白書』)。両国とも1970~1980年代までM字カーブを示していたのに、2006年のフランスではM字カーブの底を脱し、逆U字型を形成しました。つまり、フランスではこの時点で出産後の就業中断は見られず、女性管理職登用の土台ができており、その後、15年余りの間に女性活躍先進国へと押し上げられました。
【図 1 就業者および管理的職業従事者に占める女性の割合(国際比較)】
(注)M字カーブとは、日本の女性の労働力人口比率(労働力率、労働参加率)または就業率を年齢階級別にグラフ化したとき、30 歳代を谷とし、20 歳代後半と 40歳代後半が山になるアルファベットのMのような形になることをいう。この背景には、結婚や出産を機に労働市場から退出し、子育てが一段落すると再び労働市場に参入する女性が多いということが考えられる(内閣府男女共同参画局)。
今日、日本企業がいかなる内外の環境変化にさらされ、これらにどのように対処すべきなのか、この問への答えが、「なぜ企業にとって女性管理職が必要なのか」の共通の理解をはかる鍵です。
第1に、国内市場は細分化され、狭隘になった市場に分け入って、自社が持ち得る資産の有効活用を目指し、他業種へ参入する食い合いが始まっているだけに、多様化、個別化する市場開拓には女性管理職・役員が欠かせません。
購買決定権の7割以上を占めている買い手であり、使い手でもあり、長い間生活の場を任されてきた女性たちが商品開発や販売に参画することは、男性単一の組織では生まれないイノベーションの創出が可能になります。
第2に、経済のグローバル化の加速による国境を越えた生産、販売、観光などビジネスが拡大するにつれ、国内外で国籍や宗教、それぞれの文化の違いを超えた多様な人々と共に働き、受け入れる対応が求められるからです。
第3に、少子超高齢化が加速するため、生産年齢人口は2030年6,700万人へと大幅に減少。働き手不足を補うのは女性です。働く女性の多い国ほど出生率が高い、と裏付けるデータからすると、女性活躍は真の少子化対策にもつながります。
働き続け、キャリアを積んで得られる個人所得は、景気を左右する個人消費も引き揚げ、税収を拡大し、年金、医療、福祉など社会保障を支える財源確保に通じるのです。
現在、際立って低い女性管理職の引き上げは、企業の経済合理性にかなうものであり、性別にかかわらず誰もが活躍できる社会づくりにも寄与するものとなるでしょう。
女性管理職の必要性をより直接的に理解するには、女性管理職比率が高いと企業業績を向上させる証左を示すことが早道です。
欧米では「女性管理職・役員比率と企業の業績」についての調査研究結果が多く公表されています。女性管理職登用の先進国に共通しているのは、女性の参画が進んでいる国ほど競争力があり、所得(1人当たりのGDP)も上昇する傾向にあるということです。
ICGN(国際コーポレートガバナンスネットワーク)前議長ウッド氏(元CalPERS投資担当)は、「世界最大の資産運用会社であるBlackRockはじめとする米国の大手機関投資家が投資判断において長期的な企業価値を高める軸として、女性活躍を重視している」と主張しました。
内閣府「ESG投資における女性活躍情報の活用状況に関する調査研究」においても約7割の機関投資家が、投資判断において女性活躍情報を活用する理由として、「企業の業績に長期的には影響がある」と回答しています。
欧米先進諸国が、「ジェンダー・ダイバーシティ・マネジメント」を導入し女性の管理職・役員登用を実現しつつ経済発展したとすれば、日本企業も同様の経済発展潜在力があるといえます。
さて、日本でも「女性活躍と企業業績」に関する調査が増えてきたことから、そのうちの3つの調査結果をご紹介します。
1つ目は、山本勲教授が2003年から2011年までの期間、上場企業における女性活躍状況と企業業績との関係について企業パネルデータを用いて検証した調査研究です。すべての年において管理職の女性比率が高い企業は、低い企業に比較べて利益率が向上していることがわかります。
【図 2 女性管理職比率が高いと企業の利益率が向上する】
上場企業における女性活用状況と企業業績との関係-企業パネルデータを用いた検証
備考)図中の縦線は95%信頼区間
2つ目は、延べ数千社におよぶ7年分の上場企業における個社レベルのデータを分析した大和総研の調査です。①管理職に占める女性比率が一定ラインを超え、②女性役員が1人でも存在する企業を、女性活躍度が高い「なでしこ系企業」と定義しています。「なでしこ系企業」とその他の企業の財務パフォーマンスの平均的な違いを検証した結果、「なでしこ系企業」と分類された企業の5年間のROAの上昇幅は、その他の企業と比較すると+1.3%ポイントも高い、ということがわかりました。
【図 3 女性活躍を支援する企業ほどROAは高くなる】
(なでしこ系企業のROAの上昇幅ーそれ以外の企業の上昇幅、%PT)
(注2)***は1%有意水準、*は10%有意水準を満たす
出典:大和総研レポート2019年12月5日
このように利益率の向上の指摘にとどまらず、経済産業省による「管理職のダイバーシティとイノベーションの成果」との間には、統計的に有意な関係があることも示されています。
女性たちが子どもを産んでも仕事を続け、定年までキャリアを積み重ねることができれば、専門知識や技能を習得し、成長できる機会にも恵まれます。
女性が管理職に昇進し、職務を全うすることにより、自らが成長できることは、私自身1,000社を超える国内外の女性管理職や役員と交流しあう実体験からもいえることです。
日本経済新聞(2020年1月6日)が、女性を対象にした「女性が管理職になりたいと思った理由」について調査した結果、上位には「給料が上がる」67.2%、「成長できる」46.2%が並びました。
正社員として働き続け、経済的に自立した女性たちは、自身や家族が思わぬ病気や事故、自然災害見舞われても、あるいはシングルを選択しても、なんとか自分の稼得で自らを支えることが可能になるのです。生涯賃金の大きさから、高い住宅費や教育費の応分負担にもどうにか耐えられ、老後に備える年金も、それなりに暮らせる金額に近くなります。
他方、女性活躍は、男性たちが、片働きのプレッシャーから逃れ、家事・育児をすることで家事技術も習得。教育やコミュニュケーション力を身につけ、自分の好きなことに打ち込む機会を増やすことにもつながります。男性の内なる多様性を広げるきっかけともなります。
その結果、男女それぞれに新しい世界が拓かれ、ジェンダー平等なより良い関係が築けるでしょう。いきいきとやりがいをもって働き、活躍する女性管理職たちは、職場や家族の同じ構成員である男性たちの活躍や元気を引き出す点から考えると、これもまた企業が女性管理職を必要とする事由となります。
政府は、女性管理職達成目標「2020年に30%」が程遠いことから「2030年代には、誰もが性別を意識することなく活躍でき、指導的地位にある人々の性別に偏りがないような社会となることを目指す」とする「新目標」を掲げました。
その通過点として、「2020年代の可能な限り早期に指導的地位に占める女性の割合が30%程度となるよう目指して取組を進める。」というものです。
これに先だち、政府は、2020年7月1日、「女性活躍加速のための重点方針2020」を決定しています。特徴的なのは、女性活躍推進法を改正し、女性の登用などに関する行動計画の策定義務の対象を中小企業にまで拡大、女性活躍に必要な支援を行うほか、女性活躍と両輪で男性の育児に伴う休暇・休業の取得促進などにも取り組むとしたことです。
(男性の育児休業取得推進に関する記事はこちら)
政府の基本的考え方と重点方針は、私たち企業にとって下記に示す通りで追い風となっています。SDGsはじめジェンダー平等推進へ、潮目が変わろうとしている今日、この風に乗って女性管理職の育成・登用を図っていきましょう。
〈制度等〉
〈事業展開〉
振り返れば「202030目標」設定は、小泉内閣時代の2003年6月男女共同参画推進本部まで遡ります。「国際公約」にもなった目標は18年近くも経た今も実現していないのです。
そこで、こうした個々の施策に加え、根本的に女性の指導的地位に立つ女性を増やすにはクオータ制の導入も議論の余地があるのではないか。既に、政権政党の有力な女性議員からも、限定的な意味合いではありますが、抽象的な数値目標を掲げるだけでなく、ある程度強制力のあるクオータ制に賛成する声も聞かれ始めています。
筆者は、1995年から現在に至るまでの26年間女性管理職の育成・登用に取り組んで来ました。2014年には、大学院で女性管理職の育成・登用をはかる理論付けの機会をいただいて、博士論文『日本的雇用慣行を変える「ダイバーシティ経営」―女性管理職登用が経営パフォーマンスに与える影響―』をまとめ上げました。
女性管理職育成・登用に成果をあげた50社に対して実施したアンケートやヒアリング調査では、業種を問わず、いずれの企業も、共通してジェンダー・ダイバーシティ施策とワーク・ライフ・バランス施策を統合・推進していることが明らかになったのです。
それ年以降、大手企業のコンサルティングを担当し、この女性管理職育成・登用のベストプラクティスを拠り所に女性管理職育成・登用を推進しようとした際、現場に即して、それを阻害している要因を掘り下げ、解決すべき具体的課題はなにか、を明確にする必要が生じました。
実践と理論付けとにより引き出された女性管理職を育成・登用するデュラルアプローチに基づいて取り組む全体像に照らしてみると、8つの解決すべき課題が抽出できたのです。
① 組織・上司・・・アンコンシャス・バイアス、固定的性別役割分担に基づく配置・育成、マネジメント、ロールモデルの存在など
② 長時間労働
③ ジェンダー平等な企業風土
④ 仕事と育児の両立支援、両立ノウハウ
⑤ 家庭・・・パートナーや家族の意識、家事育児分担
⑥ 柔軟な働き方
⑦ 社会、政治、法律、制度、教育
⑧ 女性の意識
これらの課題を一つずつ、できる限り同時に取り組んで解決していくことで成果に繋がります。
次回以降は、これらの課題と課題に対する解決策を何回かに分けてご紹介します。