6月3日に男性育児休業に関わる法改正が衆院本会議で可決した。国の大きな狙いは、男女がともに仕事と育児を両立できる社会の実現であり、男性の育児休業取得率の向上、男性の家事育児時間の増加とともに、女性のキャリア形成のための対策という狙いが含まれている。
我々、株式会社wiwiwは、男性の育児休業取得促進が企業にとって「経営パフォーマンスの向上」と「持続的成長」にプラス効果をもたらすと考えており、今回の法改正に対応した取組支援のなかでは最初に設定する目的とKPIが重要である。
今回の改正には、下記6つのポイントがある。厚生労働省が「育児・介護休業法のあらまし」を更新し、就業規則におけるモデル規定例が公開されるのは先になるが、施策の検討は今のタイミングからはじめた方が良いだろう。
そこで、改正内容と厚労省等で検討されている内容についてポイントを紹介したい。
1. 職場環境の整備 / 2022年4月1日 施行予定
<内容>
① 新制度及び現行の育児休業を取得しやすい職場環境の整備の措置を企業に義務付ける。
② 従業員に対して下記の育児休業に係わる複数の選択肢から選択して実施する。
→「研修の実施」、「相談窓口設置」、「制度や取得事例の情報提供」 等
③ 短期だけではなく1カ月以上の長期休業の取得を希望する労働者が希望する期間を取得できるよう配慮する。
ここでの新制度とは、現行の育児休業制度とは別に新設される「出生時育児休業」である。
男性の育児休暇・休業については、取得を希望していたが利用しなかった従業員が約4割弱程度いる。休暇・休業を取得しなかった理由として、「取得できる雰囲気がない」の割合が高くなっている。
そのため、育児休業を取得しやすい環境を作るには、「経営層からの働きかけ」、「管理職への研修」、「柔軟で働きやすい制度の導入と周知」及び「制度のわかりやすい利用手続き方法への改善」、「制度利用者がいるチームへの対応」が必要になってくる。また、男性の育児休暇・休業の取得日数について、1週間以内が約7割近くというデータもあるが、今後増えると予想される「里帰りせず、出産直後の母体の回復期間のサポートも対応するパターン」の場合は、個人的な経験からも1ヵ月程度の期間が必要になるし、希望割合も増えるだろう。
2. 個別の働きかけ / 2022年4月1日 施行予定
<内容>
本人又は配偶者の妊娠・出産の申出をした従業員に対し、個別に新制度や現行の育児休業制度を周知し、取得の働きかけをし、取得意向を確認することを義務付ける。
厚労省としては、個別の働きかけがある場合の方が育児休業取得割合が増えるのにも関わらず、約6割以上の企業で働きかけがないことについて対応したものである。
今回、取得の有無についての制度周知と取得意向の確認の義務化の意義は非常に大きい。周知方法については、「面談での制度説明」、「書面等による制度の情報提供」などから選択する。その他、解雇その他不利益取り扱いの禁止が明示されている。そのため、企業は、妊娠出産について、早めに情報をキャッチアップするための仕組み作りと、取得対象者に対して誰がどのタイミングで説明するのか等、運用の仕組みを構築する必要がある。
3.「出生時育児休業」の新設 / 開始日未定(2022年秋ごろ)
<内容>
① 子の出生後8週間以内に合計28日を限度として2回取得できる(育児目的休暇も含めること可能、条件あり)。
②原則2週間前までに申請、出生時育児休業給付金(賃金日額の67%)の支給対象、就労を条件付きで認める。
新制度はいわゆる「パパ産休」といわれるものである。私自身も育休取得の効果が最もある時期と考えている。wiwiwではパパ産休についての啓発動画を奈良県様向けに制作しており、ぜひご覧いただきたい。当ページには、動画だけでなく家事・育児分担シュミレーションシートも準備しているので是非各企業でも活用してほしい。
(参考:奈良県パパ産休プロジェクト)
4. 現行の「育児休業」の改正 / 開始日未定(2022年秋ごろ)
<内容>
① 育児休業(出生時育児休業を除く)について、分割して2回まで取得可能。
② 保育所に入所できない等の場合、1歳から1歳6ヵ月に達するまでの子の育児休業をこの期間に取得していても再度取得できる。
③1歳から1歳6ヵ月に達するまでの子の育児休業の申出をした労働者の配偶者が育児休業を取得している場合、その育児休業終了予定日の翌日以前の日を育児休業開始予定日とする(育休の途中交代可能に)。
④1歳6か月から2歳に達するまでの子の育児休業についても同様とする。
父親は、出生時育休①②に加え、現行の育休も2回に分割できることから、4回の取得が可能となる。また、1歳を超える育児休業取得時には、母親と交代する形で取得できるよう開始日の柔軟化が図られた。利用できる制度が増える分、企業独自に設定している育児の目的休暇や、年次有給休暇(育児目的で利用できる失効分など)等、利用における優先順位について従業員にわかりやすく整理する必要がある。
5.育児休業を取得できる労働者の条件 / 2022年4月1日 施行予定
<内容>
①1歳未満の子を持つ有期雇用労働者で、その子が1歳6ヵ月に達する日まで労働契約が満了することが明らかでない者
②出生時育児休業については、子の出生の日から8週間後の翌日から6月を経過する日まで労働契約が満了することが明らかでない者
③ 1年未満の非正規雇用労働者でも育休取得可能に
育児休業取得対象者の要件が緩和される。そのため、制度利用者が増えることへの対応が必要になるだろう。
6.育児取得率公表
①1,001名以上の企業は、男性の育児休業等取得率又は育児休業等及び育児目的休暇の取得率の公表を義務化 /2022年4月1日 施行予定
② くるみん認定基準の見直し案 / 未定 ※厚生労働省:男性の育児休業取得促進策等について(建議)
②のくるみんの認定基準については、実施時期が未定であるが、①の従業員数1001人以上の企業については2022年4月より育児休業取得率公表の義務が発生する。公表内容についても、育児休業だけでなく、出産休暇含む「育児目的休暇」を含んだ取得率目標、そして取得期間、産後8週以内等の時期なども取組成果の指標になる可能性があるため、併せて目標数値の検討が必要だろう。
まとめ
今回の法改正をうけ、社内におけるおおまかな男性育休取得促進支援を実施する手順を下記にまとめた。先にも述べたが、取組支援におけるはじめの目的とKPIの設定が大変重要となる。
法改正で各種取組が義務化されたから取組を実施するという考えではなく、この取組を実施することで、経営や従業員にとってどのようなプラス効果を生むことができるのかを検討し、積極的に従業員にも伝える必要もあるだろう。企業が制度設計の思想や視点を持つことで、より制度の実質的な活用が可能となり、「休むだけ」の休業を防ぐことも期待できる。
特に、「1」の目的を設定する際には、育休の「取得率」、「取得期間」などの人事データと併せて、下記項目のような「質」に関するデータが揃うとより、有用なKPI設定や制度作りも可能となる。
①男性育休取得推進の阻害要因
②男性育児休業の促進要因
③育児休業の内容(育児・家事・パートナーのサポート等への関わり)
④育児休業取得の効果(働き方等にどのように影響があったか)
wiwiwでは、上記データ取得のために、今回の法改正に合わせて新たにweb実態調査をリリースした。参考にしてもらえると大変うれしい。
(参考:wiwiw「男性の育児休業取得Web実態把握調査」)
参考資料)
厚生労働省:仕事と育児等の両立に関する実態把握のための調査研究事業
厚生労働省:男性の育児休業取得促進策等について(建議)
内閣府:少子化社会対策大綱
衆議院;育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律及び雇用保険法の一部を改正する法律案